■雨の日の誘惑(あ ま つ き 紺鴇)







急な雨に見舞われた篠ノ女と鴇は慌てて篠ノ女が借りている長屋へ駆け込んだ。

「うあ〜最悪だよ…ビショビショだ」

「あー、とりあえずそこで着物脱げ。手拭い持ってくるから待ってろ」

「うん、頼むよ」

そう言って篠ノ女は部屋の隅にある箪笥から手拭いを数枚持ってきた。

鴇時はその間にひとまず上半身だけ着物を脱ぎ、腰へ落とした。

「ほらよ」

「サンキュ」

手拭いを受け取り頭をゴシゴシ拭いた。

すると、その完全に無防備な背中に気配を感じ…。

次の瞬間背筋にツー…と一本の指が上から下まで一気に這わされ、その感触に全身鳥肌が立った。

「ぎゃー!な、な、な、な…っっっ!!!」

無防備だったところで突然の行為に、鴇はそれこそ心底驚き、目を見開いて振り返った。

「なにすんだよ、篠ノ女!」

「いやなに…」

指を這わされた背筋にまだ感触が残っているかのような気がして、鴇は背中を仕切りに擦っている。

慌てる相手をよそに篠ノ女は己の顎に手を当て「ふむ」と呟きつつ、下を見下ろしていた。

「なんだよ…どこ見てんだ?」

怪訝そうに背の高い篠ノ女の目線を辿ると、そこには生っちろいいかにも現代風な高校生男子の胸元がある。

「…どうせ俺はお前みたいに筋肉隆々じゃ…」

「鴇」

「なんだよ」

ついっと視線を上げて鴇と視線を合わせた篠ノ女は何を思ったのか身をかがめて顎に当てていた手を内緒話のように顔に寄せた。

「んんん?」

不審そうに、けれど素直に篠ノ女の態度に促され顔を寄せた鴇は間違いなく凍った。

「俺とセックスしねえ?」

「………はい?」

言われたことが頭の中に留まることを拒否し、反対側の耳から抜けて行った。

「結構前からだけど、お前見てるとムラムラすんだよ。だからさ」

「………何言ってんの?え?はい?篠ノ女大丈夫?」

「ま、いきなり言ってもニブチンのお前にゃ理解できねえだろうしな。また今度誘うから、考えとけよ」

ぽかーんとする鴇をそのままに、篠ノ女は「ちゃんと体も拭いとけよ」と声をかけて、お茶の支度をしはじめた。

「へ?あ、の、ちょ……」

「替えの着物、そこにあるだろ。さっさと着替えて濡れたの干しておけよ」

何ごとも無かったかのように、篠ノ女は釜戸へ火を入れた。

「篠ノ女のバーカ!」

背後から叫ぶ声が聞こえた。





我ながら少し唐突だったかなと思わなくも無いが、でも仕方無いのだ。

本当に前から思っていたことだったのだから。

鴇を見ていると普段忘れている性欲がかなり強く刺激されることを自覚してどのくらい経つだろう。

この世界にきてやること、考えることが多すぎてそんな気分にはあまりなったことがなかった。

それでも鴇がやってきて、彼が自分の周りをちょろちょろするようになり、いや、むしろ自分がこの危なっかしいヤツを守ってやらにゃ、と感じ常に様子を見守ってきた。

次第にそれが変化して少しの仕草にも心臓がドクリと鳴ることもしばしば。

(さっきのは、マジでやばかった)

薄暗い部屋の中、白く浮かぶ小さな濡れた背中。

あんな無防備な背とうなじを見せ付けられ、指一本触れただけで済ませた己を褒めてやりたい。

(ったく、ほんとどうしようもないヤツだな。もうちっと警戒心ってものを―)

「篠ノ女のバーカ!」

すると背後から叫び声が聞こえてきた。

思わず苦笑した。

「うるせえ、ばーか」

「篠ノ女の三倍バカ!」

きっと真っ赤になってるだろうその顔を思い浮かべるだけで、今晩のおかずには困らないだろうと密かにいやらしく笑いつつ、篠ノは「茶飲ませねえぞ!」と怒鳴り返した。



















END














生まれて初めて書いたあまつき紺鴇SSでした(笑)
ひー!恥ずかしい!拙い!下手くそ!今も下手だけどいっそう下手だわ(笑)
でも手直しせずそのまま載せます。直したいけど!ものすごく!
でもこの初々しさが無くなっちゃう気がしてね。情熱だけで書いたものだから(笑)
これは…いつかなぁ。一年以上前だ。載せよう載せようと思ってなかなか
載せられなかったヤツです。温存するほど大したものじゃないのに(汗)
あまつきはやっぱり紺鴇が一番好き〜♪



(2010年初出)



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