■きっかけはそんなもの(あ ま つ き 紺鴇)









 切っ掛けは、間違いなくアレだ。

「春画本、見るか?」

 ニヤニヤ笑って篠ノ女が差し出してきたのは、あまつきにおけるいわゆるエロ本だ。

 俺も男だし、興味が無いと言えばうそになる。

 純情ぶってるつもりはない。

「うわ、すご…」

「だろ?」

「何が凄いってさ、やっぱりナニ…だよな」

「まあな」

 そう言って篠ノ女はおかしそうに笑う。

 春画本がエロ本だっていうのは知ってたけど、実際見てみると…イチモツのサイズが凄い強調されてて、いくらなんでもここまで書かなくても!と思うほどかなり凄い。

「感想は?」

「うーん」

 篠ノ女は俺の正面で、同じ本を覗きこんでいる。

 感想を求めてくるその顔は間違いなくからかいが混じっている。

「イラストだし、この絵だし、どうなのかなって思ったけど…」

「けど?」

「結構凄いね」

「まあ、あっちの世界にもエロ漫画とかイラストが普通にあるから、その点では特に珍しいものでは無いしな」

 絵で抜く、ってのはどの時代でもアリなんだろうと篠ノ女が笑う。

 俺はもう一度絵を見た。なんだか不思議だなぁと思う。

「時代が変わっても、こういうのは全然変わらないんだなぁ」

 そういう場面の描写も、その部分も、彼岸にあるエロ本と何も変わらない。

「体位とか性器、シチュエーションってことか?確かにな。よく言うだろ、原始時代からの営みって。やることは原始時代から変わらないし、興味も尽きず、こういう本はいつの時代でもオカズに必須ってことだ」

 ナニの強調だって現代ではよくあるだろ、と篠ノ女は平気な顔して言っている。

 でも俺はなんだかちょっとヤバい。

 春画本で体がモゾモゾしてくるとか、さすがに恥ずかしいし、しかも篠ノ女の家でとか、最悪だ!

 篠ノ女の顔をまともに見れなくて下を向くけど、そこにはまだ春画本があって、俺は目のやり場にかなり困った。

 なんとか治めないと。こんなのコイツに知られたら…っ。

「俺もたまに使うしな」

「へっ?!」

 その台詞に思わず顔を上げた時、篠ノ女の口と俺の口がくっついていた。

 かさかさしてる感触と、後頭部に触れる大きな手。

 そして煙草の香り。
 
 ふっと唇が離れたタイミングで俺は篠ノ女の名前を呼ぼうと思ったけど、出来なかった。

 すぐそばにまだ唇があって、そこから漏れる息が俺の唇にかかったからだ。

 しかも今度は湿った舌がねっとりと俺の唇を舐めて来た。

「ん!」

 ぞわり、と背筋が震えた。

 やばい。

 なんだこれ。

 もっとして欲しいとか思ってしまった。

 助けを求めて諸悪の根源である篠ノ女を見ると、その強い眼差しに縛られ体が動けなかった。

「鴇」

 俺を呼ぶ声は、今まで聞いたことが無いような深さと湿り気を帯びていて、俺はそのまま黙って目を閉じてしまった―――。










 END














紺が春画本を持っているのは公式です(笑)
これは2011年の夏コミで配布したペーパーの裏面へ載せた
SSでした。2ページにまとめてパパっと何か書きたいわと思った
時に春画本の件を思い出したので(笑)
あとになって、この春画本ネタで小説一本書けたんじゃね?と
少し後悔しました(笑)まあそういうこともあります…。
紺ってホント鴇のお母さんだよね(笑)お母さんでありお兄ちゃんで
あり、恋人…(笑)


(2011年8月12日初出)



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