■優しい眠り
「あ、いたいた!坂田先生」
丁度トイレから出てきたところで体育教師の服部に声を掛けられた。
「実はさっきの授業中に志村くんが倒れて………」
頭をボリボリ掻きながらだるそうに聞いていた銀八はそれまでの態度が嘘のように服部の台詞を皆まで聞かず、保健室へすっ飛んで行った。
「ただの貧血なんだけど…って聞いてないな」
去って行った背中を遠くに見て、服部は肩をすくめた。
「新八!」
「あら坂田先生」
銀八が保健室へ入ろうとした時、ちょうど保健医が扉に手をかけるところだった。
「ちょうど良かった。私ちょっと職員室へ行ってきますので新八くんのこと見ていて頂けますか?ただの貧血なので寝ていれば良くなりますから」
それを効いた銀八はホッと肩の力を抜いた。
「そうですか。あ、じゃぁついでに三年Z組は自習って伝言お願いします〜」
それを聞いた保健医は笑って退室した。
銀八は眠っている新八の枕元へイスを寄せて静かにその顔を覗き込んだ。
貧血の為かやはり顔がまだ青い気がする。
無言で暫らく様子を見ていたがあまりにも顔色が悪いので不安になり、そっとその頬に触れた。
(あったかい………)
手のひらで触れた頬は確かにぬくもりが感じられた。銀八はそっと頬を撫で続けた。
「ん……」
やがて新八は睫毛を揺らしゆっくりと目を開けた。
眩しいのか瞬きを繰り返している新八へ驚かさないように小さく声を掛ける。
「大丈夫か?」
「……あ、先生……」
「お前、倒れたんだよ体育で。貧血だってよ。ちゃんと飯食ってんのか?」
少し怒ったようにそう言うと、新八は自分の状況がようやく理解出来たのか掛け布団を鼻の辺りまでズリ上げた。
「ちゃんと食べてます。ただゆうべはちょっとテレビ見てたら夜更かししちゃって………」
気まずそうに上目遣いで言う。
その顔に銀八は呆れたように溜息をついた。
「それでこんなに青い顔したんじゃ、困りもんだな」
手のひらに簡単におさまるほどの頬はふにふにと柔らかくて気持ちが良い。
ずっと撫でていたくなる。
「ごめんなさい…」
そう囁いた声に銀時は一瞬目を見開き、そのしょぼくれた新八の顔を見てふっと笑った。
「夜更かしするなとは言わんが、あんまり無茶はするなよ?今日はちゃんと寝るんだな」
「はい……」
新八はそれきり何も言わず銀八に黙って頬を撫でさせていた。
そして気付くとすぅすぅと寝息が聞こえ始めた。
(眠ったか……)
意外に長い睫毛を伏せて、新八は穏やかな寝息を立てる。
よく見ると先程よりも頬の赤味が増してきたようだ。体温が戻ってきたのだろう。
(あんまり心配させんな………)
銀八はイスから腰を上げゆっくりと新八へ覆い被さり、そっと口吻けた。
唇へ一瞬かすめた寝息がとても甘く銀八の背中を駆け上がった。
(良く眠れ…)
小さく唇の端を持ち上げ、もう一度その柔らかい唇に触れると体を起こした。
イスに座り直すとグランドでサッカーをしている声が聞こえてきた。
「良い天気だな……」
そう言うと銀八はまた新八の頬を撫ではじめた。
それはとても愛しさに溢れたものだった。
END
2006年6月4日に開催されたオンリー【め組】にて
配布したペーパーに載せたものです。初めて書いた
銀八先生ですがなんだか妙に書きやすかった(笑)
もっとちゃんと書きたかった。本当は1冊これで本を
作る予定だったんです(がくり)
設定としてはお付き合いしている二人。でも周りには内緒。
銀八先生が新八を可愛がってるのは周知の事実。素直になれない
新八といつもイチャイチャしたいけど一応我慢してる先生の話(笑)
(2006年6月4日初出)
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