■おでかけしましょ  ……[2]











『その代わり丸一日デートすること。来週の水曜日、絶対空けとけよ』

 あの日から早10日。

 約束の水曜日がやってきた。

 新八は待ち合わせの時間よりも大分早めに家を出た。

 寒いけれどとても天気の良い今日は、まさにお出かけ日和だった。

(銀さんに任せて大丈夫かなぁ……)

 指定された場所へ行くまでに幾度となく繰り返している心配事。

『デートの計画は全部俺に任せとけ』   

 そんなことを楽しそうに言っていた銀時の顔を思い出すと、小さく溜息が零れる。

(どうせ映画見て、帰りに甘味処であんみつか何か食べるだけだと思うけど)

 約束を忘れていた負い目があるので、新八には拒否権は元から無い。

 デートと言う言葉には少し抵抗があるけれど、どうせただ遊びに行くだけだし。

 だから、いたって能天気に新八は待ち合わせ場所へ赴いた。

「あれ、銀さん」

「よっ、新八」

 まだ来てないだろうなと思って待ち合わせ場所である公園の像の前を見たら、そこには既に銀時が来ていた。

「早いですね、まだ30分ありますよ」

「俺はデートは30分前行動って決めてんだよ」

 そう言って銀時が笑った。

 その笑いがいつもより爽やかな気がする。

 新八は怪訝そうに眉をしかめた。

「銀さん?今日、何かあるんですか?」

「ん?や、何も無いぜ」

 何も無いと言うわりには、やけに笑顔が爽快だ。

「そういうお前こそ来るの早いじゃん」

「僕も早めに着いてないと落ち着かない方なんで」

 そういうと良い心がけだと銀時は感心していた。こんなことに感心されても困る。

「それで、今日はどうするんです?」

「まず映画を見る。先週言ってたヤツな」

 んじゃ行くか。

 そういうと銀時はいそいそと映画館へ向かった。

「時間は何時からなんです?」

「ちゃんと調べたぜ?11時からだ」

 妙に慣れた様子でチケットを買うと、新八を促し映画館へ入った。

【ハニーボッターと怪しいオヤジ】

 見たいと言っていたものは、魔術師の主人公が謎の怪しい男と魔術対決をするという流行の映画だった。

 座席はそれなりに埋まっていて、けれど満席というほどでも無いほどほどの入りだった。

 2人は軽くポップコーンと飲み物を買って、一番後ろの座席へ並んで座る。

 映画はなかなか面白かった。

 面白かったが………。

「新八ぃ、そんなに怒るなよー」

「………」

「可愛い顔が台無しだぜ?」

「可愛くない!なんであぁいうことするんですか!」

 顔を真っ赤にして、声を押さえながら怒鳴る新八に銀時はひょうひょうと「だって、したかったから」と言ってのけた。

「あのなぁ!」

 反省の態度が伝わらないその言動にキレそうだ。

 映画を見ている時のこと。

 前半の見所シーンを集中していた新八は突然のことに体が椅子から一瞬飛び上がった。

 声が出なかったのはまさに不幸中の幸いだろう。

 膝のあたりを見ると何やらモソモソと動くものがあった。

 銀時の手だ。

(ちょっと!何やって……)

 驚いた新八は銀時の手をどかそうと掴んだ。

 そして銀時を見ると人差し指を口元にあてながら「しーっ」という仕草をしている。

(しーっじゃない!)

 せっかく良い映画を見ているところなのに、こんな痴漢じみた行為で邪魔しやがって!

 なんとか手を外そうとしていると、何時の間にかその手が太股の上をサワサワと撫でている。

 ぞわっと背中が泡立つような感じがして、ピシャリと手を叩くと、今度は太股の内側に入り込んで強く揉んだ。

「ん!」

 思わず洩れた声に自分で驚き、慌てて口を手で押さえ軽く咳払いをして誤魔化した。

(もうやめろ!) 

 目で訴えても銀時はそしらぬ顔で映画を見ていた。

(この野郎!!)

 いよいよ殴ってやろうかと思った時、銀時の手が袴の上から股間を軽く撫でてきて、今度こそ新八は爆発した。

「痛っ!」

 涙目になりつつ悪さをする銀時の手の甲を渾身の力で抓ってやった。

 さすがの銀時もこの痛さには驚いたのか、思わず悲鳴をあげて体が椅子から飛び上がった。

 離れていった手に安心し、それでもまたいつやられるか分からないので情けないことに新八は上映時間中ずっと股間を両手で抑える羽目になった。

 そして銀時は己の手の甲をふうふうしながらちょっぴり涙目で映画を見ていた。











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